人工呼吸器中のストレス潰瘍予防(REVISE trial)

人工呼吸器中のストレス潰瘍予防

Stress Ulcer Prophylaxis during Invasive Mechanical Ventilation

  • N Engl J Med. 2024 Jun 14.
  • doi: 10.1056/NEJMoa2404245.
  • PMID: 38875111.
目次

Introduction

  • 重篤な患者はストレス潰瘍のリスクがあり、上部消化管出血を引き起こす可能性がある。
  • ICU患者は、通常、消化管出血を防ぐために制酸薬(最も一般的にはPPI)を投与される。
  • SUP-ICU trialでは、パントプラゾールはプラセボと比較して臨床的に重要な上部消化管出血のリスクを低下させたが、重症患者のサブグループでは死亡率が高いという結果であった。
  • PEPTIC trialでは、H2Bと比較して、PPIは消化管出血エピソードが少ないが、重症患者のサブグループでは死亡率が高いという結果であった。
  • 2020年にICMから出たネットワークメタアナリシスでは、制酸薬によりICUの患者における上部消化管出血のリスクが軽減されたが、予防薬による死亡率への影響はなかったことが示された。しかし、HAPおよびCDIのリスクに関しては、PPIによる害を否定できなかった。
  • よって、最近のガイドライン(BMJ. 2020;368:l6722.)では、中程度の質のエビデンスに基づいて、出血リスクの高い重症患者、特に敗血症患者(Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)に対するPPIによるストレス潰瘍予防について、弱い推奨しか出されていない。

PICO

P: 2019/7/19-2023/10/30までにオーストラリア、ブラジル、カナダ、イギリス、クウェート、パキスタン、サウジアラビア、米国の68の病院で登録された、18歳以上の成人で、ICUで人工呼吸器治療を受けておりランダム化の日を超えて人工呼吸器が継続することが予想されている人

I: パントプラゾール(0.9%塩化ナトリウムで溶解した40 mg)

C: プラセボ(0.9%塩化ナトリウム)

O: ランダム化後90日までの、血行動態破綻した、またはICUでの治療介入につながる (または、入院中にICUへの再入院につながる) 臨床的に重要な上部消化管出血

Method

【デザイン】

  1. オーストラリア、ブラジル、カナダ、イギリス、クウェート、パキスタン、サウジアラビア、米国の68の病院で、治験責任医師主導の多施設ランダム化盲検試験
  2. カナダとオーストラリアのピアレビュー助成機関 (カナダ保健研究機構、オーストラリア国立保健医療研究評議会を含む)による助成金あり
  3. SARS-CoV-2パンデミックの間、各センターで短期間登録が一時停止されたが、プロトコルを変更することなくこれらの患者を登録することができた。
  4. Inclusion: 18歳以上の成人で、ICUで人工呼吸器治療を受けておりランダム化の日を超えて人工呼吸器が継続することが予想されている人
  5. Exclusion:
    1 今回の入院中にすでに72時間を超える人工呼吸器管理がされている
    2 活動性消化管出血または出血リスクが高い場合 (例: 現在出血中、8週間以内の消化性潰瘍出血、最近の重度の食道炎、バレット食道、ゾリンジャー・エリソン症候群) に酸抑制剤を投与されている。 [ディスペプシアやGERDは除外基準ではない]
    3 ICUでPPIまたはH2Bの1日用量相当を超える酸抑制薬投与あり
    4 DAPT使用中
    5 抗血小板薬と治療用抗凝固薬の併用
    6 現地の製品情報によるパントプラゾールの禁忌
    7 緩和ケアまたは高度生命維持装置の中止が予想される
    8 妊婦
    9 この試験または関連試験、あるいは同時登録が禁止されている試験への以前の登録
    10 患者、代理人、または医師が拒否

【Trialの流れ】

  • 研究スタッフは、パスワードで保護されたウェブサイトを使用して、サイズが非公開のブロックを並べ替えてランダム化を施行
  • 患者は、試験センターと入院前の酸抑制剤の投与に応じて層別化され、静脈内パントプラゾールまたはプラセボのいずれかを投与されるよう 1:1 の割合で割り当てられた
  • 試験薬剤師または試験グループの割り当てを認識しているスタッフが、パントプラゾール(0.9%塩化ナトリウムで再構成した40 mgの用量)またはそれに対応するプラセボ(0.9%塩化ナトリウム)を準備した。
  • 盲検性を保証するために、10日間にわたってパントプラゾールとプラセボの色の安定性を検証した。
  • パントプラゾールまたはプラセボは、ベッドサイドのスタッフによって、90日間、または人工呼吸器の中止、PPIに対する事前に指定された臨床適応症または禁忌の発生、または、死亡のいずれか早い方まで、盲検化状態で投与された。初回ICU入院中に侵襲的人工呼吸器が再開された場合は、パントプラゾールまたはプラセボが再開された。
  • 試験グループの割り当ては、データ分析が完了するまで、患者、その家族、臨床および研究スタッフ、結果判定者、生物統計学者には知らされなかった。
  • 試験グループの割り当てと試験センターを知らない 2 人の訓練を受けた医師が、すべての出血イベントを判定し、主要アウトカムの定義が満たされているかどうかを判断した。

【データ収集】

  • 研究スタッフは、ベースラインで患者の特徴(人口統計学的特徴や生命維持機能など)を記録し、毎日試験データを収集し、匿名化されたデータを安全な電子データ収集システム(iDataFax)に入力して臨床結果を記録した。患者に臨床的に重要な上部消化管出血が疑われる場合、関連する匿名化された臨床、検査、および手順のソースデータが試験方法センターに提出された。

【Primary outcome】

  • ランダム化後90日までの、血行動態破綻した、またはICUでの治療介入につながる (または、入院中にICUへの再入院につながる) 臨床的に重要な上部消化管出血

【Secondary outcome】

  • 人工呼吸器関連肺炎
  • 院内におけるCDI
  • 腎代替療法の開始
  • ICUおよび院内死亡率
  • 重要な上部消化管出血(1回の輸血、血管収縮薬使用、診断内視鏡検査、コンピューター断層血管造影、手術を必要とする出血、死亡、障害、長期入院につながる出血)

【Tertiary outcome】

  • RBC輸血の総単位数
  • 血清Creのピーク値
  • 人工呼吸器の使用期間
  • 病院およびICUでの滞在期間

【Safety outcome】

  • 90 日後のあらゆる原因による死亡。90 日以内に退院した患者については、患者または家族と連絡を取るか、医療記録から現在の健康状態を確認した。

【解析計画】

  • 先行研究から、プラセボ群のベースラインリスクが3%とした
  • 両側タイプ I の誤差が 0.05 であることから、4,800 人の患者を登録することで、試験で 1.5 パーセントポイントの絶対グループ間差を検出する検出力が 85% になると判断
  • 病院前酸抑制の投与を調整した後、主な有効性と安全性の結果について Cox 比例ハザード分析を使用。ハザード比と 95% 信頼区間、絶対リスク差、および Kaplan–Meier 曲線を計算した。
  • 死亡率の結果は、APACHE IIスコアで測定されるベースラインの病気の重症度に合わせて調整された。このスコアは 0 から 71 の範囲で、スコアが高いほど死亡リスクが高いことを示す。
  • 二値二次アウトカムの評価には、Cox 比例ハザード分析も使用された。歪んだ連続二次アウトカムは対数変換され、データが正規分布している場合はパラメトリック法が使用された。対数変換後もアウトカム分布が歪んだままの場合は、ノンパラメトリック法を使用した。残差を調べるためにグラフィカル手法を使用し、Cox 回帰の比例ハザード仮定を含むモデルの仮定と適合度検定を評価した。
  • 赤血球輸血については、負の二項回帰を使用してグループを比較した。
  • その他のすべての連続アウトカムについては、元のスケールまたは入院前酸抑制の調整後の対数スケールで線形回帰を使用、もしくはウィルコクソン順位和検定を使用した。
  • 連続アウトカムについてはデータ欠落が患者の2%未満だったため、多重補完は実行しなかった。
  • 主な有効性と安全性の結果については、事前に指定された仮説を持つサブグループの分析を実施した。これらの分析には、病院前での酸抑制剤の投与の有無、APACHE II スコア25以上と25未満のスコアの比較、内科的診断によるICU入院と外科的診断または外傷診断の比較、SARS-CoV-2陽性と陰性の比較、女性と男性の比較の評価が含まれる。
  • 主要な有効性および安全性アウトカムに対する事前に指定された感度分析は、入院前の酸抑制薬を調整しない分析、試験センターをランダム効果として含めた分析、人工呼吸中に試験日数の少なくとも80%にパントプラゾールまたはプラセボのいずれかを投与された患者に限定した分析、主要な有効性アウトカムに対する競合リスク分析(競合リスクとして死亡を使用)であった。
  • 二次および三次アウトカムの分析では、サブグループとともに、多重有意性検定を調整するために連続ホルム-シダック法を使用した。

Result

【プロトコール、集団】

  • 4821人の患者のうち、2417人がパントプラゾール群に、2404人がプラセボ群にランダムに割り当てられた。
  • 平均 (±SD) 年齢は 58.2±16.4 歳、平均 APACHE II スコアは 21.7±8.3、1752 人の患者 (36.3%) が女性
  • すべての患者が人工呼吸器を使用しており、3389 人 (70.3%) が強心薬または昇圧薬を使用しており、308 人 (6.4%) が腎代替療法を使用していた
  • 2 つのグループでは、入院前の酸抑制 (1120 人の患者、23.2%) とグルココルチコイド療法 (1,694 人の患者、35.1%) の頻度が同程度
  • パントプラゾールまたはプラセボは、中央値 5 日間 (四分位範囲 3 ~ 10) 投与された
  • 合計4699例の患者(97.5%)が、侵襲的人工呼吸の80%以上の日数について、指定された薬剤を投与されたか、または事前に規定された免除を受けた。

【主要評価項目】

  • 臨床的に重要な上部消化管出血は、パントプラゾールを投与された患者2385人中25人(1.0%)、プラセボを投与された患者2377人中84人(3.5%)に発生し(HR0.30、95% CI 0.19~0.47、P<0.001)、絶対差は2.5%(95% CI 1.6~3.3)であった

【Safety outcome】

  • ランダム化後90日死亡率は、パントプラゾール群では2390人中696人(29.1%)、プラセボ群では2379人中734人(30.9%)であった(HR 0.94、95% CI 0.85~1.04、P=0.25)。絶対差は1.7%(95% CI -0.9~4.3)であった。

【Subgroup and sensitivity analysis】

  • サブグループ解析では、事前に指定されたサブグループ比較(入院前酸抑制薬の有無、APACHE II スコア ≥25 対 <25、内科的 ICU 入院対外科的または外傷 ICU 入院、SARS-CoV-2 陽性対陰性、女性対男性)に基づいて、パントプラゾールが主要な有効性または安全性の結果に及ぼす影響は示唆されなかった。
  • 感度分析では、メイン分析と同様の結果が得られた。

【Secondary outcome】

  • 人工呼吸器関連肺炎は、パントプラゾール群では2394人中556人(23.2%)、プラセボ群では2381人中567人(23.8%)に発生した。CDIは、パントプラゾールを投与された2385人中28人(1.2%)、プラセボを投与された2377人中16人(0.7%)に発生した。
  • 患者にとって重要な消化管出血は、パントプラゾール群ではプラセボ群よりも発生頻度が低かった(2385人中36人[1.5%]対2377人中100人[4.2%]、HR 0.36、95% CI、0.25~0.53、P<0.001)。
  • ICU での死亡は、パントプラゾール群では 2,402 人中 488 人 (20.3%)、プラセボ群では 2,392 人中 515 人 (21.5%) であった (HR 0.98、95% CI 0.87 ~ 1.11、P=0.94)。
  • 院内での死亡は、パントプラゾール群では 2,399 人中 630 人 (26.3%)、プラセボ群では 2,381 人中 677 人 (28.4%) であった (HR 0.96、95% CI 0.86 ~ 1.07、P=0.91)。

【Tertialy outcomes and adverse events】

  • 輸血された赤血球の総単位数やICUでの血清クレアチニンのピーク値など、三次アウトカムにおいてグループ間で重大な差は生じた。
  • 患者は両グループとも、平均6日間 (四分位範囲 3 ~ 11 日)人工呼吸器を使用した。両グループでは、ICU入院期間 (平均 10 日、四分位範囲 6 ~ 16 日) と入院期間 (平均 20 日、四分位範囲 11 ~ 37 日) はほぼ同じであった。

Discussion

【結果のまとめ】

  • 人工呼吸器を受けている患者を対象としたこの試験では、静脈内パントプラゾールは臨床的に重要な上部消化管出血のリスクを低下させた(NNT40)が、死亡率には影響しなかった。
  • パントプラゾール群の患者は、人工呼吸器関連肺炎やCDIのリスクがプラセボ群の患者よりも高いことは確認されなかった。
  • 病院およびICUでの滞在期間と院内死亡率は両群で差はなかった。
  • 重症患者において、パントプラゾールを投与された群の死亡リスクの増加は認められなかった。
  • プラセボ群の患者のうち、病院前酸分泌抑制を受けた患者サブグループでは、胃酸のリバウンドによる過剰分泌が懸念されたにもかかわらず、消化管出血の増加は観察されなかった。

【Limitation】

  • 患者が報告した障害の結果や、感染リスクのメカニズムとしての微生物叢の変化に関するデータがないこと

内的妥当性

無作為割り付け:OK

選択バイアス:683人が家族による同意拒否あり

脱落率:1.6%

マスキング:試験薬剤師または試験グループの割り当てを認識しているスタッフが、パントプラゾールとプラセボを準備。試験グループの割り当ては、データ分析が完了するまで、患者、その家族、臨床および研究スタッフ、結果判定者、生物統計学者には知らされなかった。また、試験グループの割り当てと試験センターを知らない 2 人の訓練を受けた医師が、すべての出血イベントを判定し、主要アウトカムの定義が満たされているかどうかを判断した。

ベースライン:同等

ITT解析:プラセボ群でPPIを投与した人はいなかったため、不要であった。

実際の介入(偏りはないか):方法通り

サンプルサイズ計算:問題なし

報告バイアス:なし

外的妥当性

  • 多施設研究
  • 60歳前後での群がメインでありそれ以外の患者層では不明
  • 日本でパントプラゾールの使用がないため、オメプラゾールやタケキャブなどで代用できるかは不明。また、H2Bとの比較はしていないのでそれも不明。

まとめ

今までのstudyでは重症患者に対するPPI投与と死亡率が関係している可能性が示唆されていたが、本研究にて否定された。

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