メトホルミン関連乳酸アシドーシス:重篤な患者における病態生理学、診断、管理のミニレビュー

メトホルミン関連乳酸アシドーシス:重篤な患者における病態生理学、診断、管理のミニレビュー

Metformin-associated lactic acidosis: A mini review of pathophysiology, diagnosis and management in critically ill patients

  • World J Diabetes. 2024 Jun 15; 15(6): 1178–1186.
  • doi: 10.4239/wjd.v15.i6.1178
  • PMID: 38983827

メトホルミン関連乳酸アシドーシスに関するレビューがあったのでまとめます。大体type A 乳酸アシドーシスが合併しており、その治療がまず優先されますが、その後、メトホルミンが乳酸アシドーシスに加担していることを検討し、必要に応じて透析を考慮しましょう。

目次

Introduction

メトホルミンは肝臓の糖新生を阻害することで高血糖を抑制する。様々な理由により蓄積が生じると、メトホルミン関連乳酸アシドーシス(MALA)の形での重篤な毒性が発生する可能性がある。死亡率は10%を超える。

英国の研究によると、メトホルミンの使用は、メトホルミンを使用しない場合と比較して、2型糖尿病患者の乳酸アシドーシスの発生率が約4.5倍高く(100,000患者年あたり45.7例対11.8例)、腎機能の悪化に伴ってリスクが増加することが判明した(Diabetes Obes Metab 2017;19:1579-1586.)。

MALAの病態生理学

MALA につながるメカニズムには、図1に示すように、ミトコンドリアでの酸化リン酸化によるクリアランスの低下による乳酸の蓄積が関係している。メトホルミンによる酸化リン酸化の阻害はミトコンドリア機能不全を引き起こし、正常な酸素供給があっても乳酸アシドーシスを引き起こす。

<図1>

メトホルミンは主に小腸から吸収され、血液中ではタンパク質結合が無視できる程度で、最小限に代謝され、腎臓によって変化せずに排出される。治療投与中のメトホルミンの最高濃度は1.5~3mg/Lの範囲である。血漿中濃度が4 mg/Lを超えると定義されるメトホルミン濃度の上昇は、乳酸アシドーシスの悪化と関連している。

メトホルミン以外にも、低酸素性呼吸不全や循環不全による酸素供給不足、敗血症誘発性のミトコンドリア機能不全、またはウイルス、毒性、その他の原因による肝不全によっても酸化リン酸化が阻害される可能性がある。ほとんどの場合、MALAはメトホルミンと他の原因のいずれかの組み合わせによって引き起こされ、重篤な患者にみられる可能性がある。

MALAの診断

メトホルミンを投与され、動脈血または静脈血ガス分析でAG開大性代謝性アシドーシスを示す患者では、MALAを疑う。メトホルミン値が高いとMALAの診断が裏付けられるが、低い値ではMALAを除外できず、閾値9.9 mg/Lでの感度はわずか67%にとどまる。

MALA の非特異的な臨床的特徴には、疲労、食欲不振、吐き気、低体温、低血圧、腹痛、意識障害などがある。その他稀ではあるが、アシドーシス関連の網膜細胞障害が原因である可能性のある急性可逆性失明を認めることがある。

乳酸アシドーシスの原因として、メトホルミンによるミトコンドリア機能不全と、酸素供給不足による組織酸素化不足を見極めることは、適切な治療を行う上で非常に重要であり(図1)、重症患者では両者が共存する可能性がある。組織酸素需要を満たす酸素供給が不十分なために組織酸素化が不十分になると、CRT>3secとなるtype A 乳酸アシドーシスが発生する。動脈血ガスと中心静脈血ガスの分析が可能な場合、中心静脈酸素飽和度(ScvO2)が70%未満、またはScvO2が70%以上で二酸化炭素ギャップが6mmHgを超える場合(中心静脈ラインの先端を上大静脈と右心房の接合部付近に置き、そこから採取した血液サンプルから測定した中心静脈二酸化炭素分圧と動脈二酸化炭素分圧の差)は、A型乳酸アシドーシスを示す。治療には、血中酸素化改善、心拍出量増加、ヘモグロビンの増加、によって酸素供給を改善する必要がある。さらに、鎮静と機械的人工呼吸によって酸素需要を減らすことができる。これらの治療法は、type B 乳酸アシドーシスにつながるミトコンドリア機能不全を直接治療するものではない。

type B 乳酸アシドーシスは酸素供給は十分であるが、呼吸鎖は利用可能な酸素の利用を阻害される。呼吸鎖阻害薬(MALAの場合はメトホルミン)の除去が必要になる。この除去は、腎機能が十分であれば腎臓を介して自然に達成されるが、腎障害あれば腎代替療法を介する必要がある。

MALAのリスク因子

<腎障害>

メトホルミンは腎臓から濾過と尿細管分泌によって排泄されるため、eGFR低下を伴う腎障害では、蓄積と毒性のリスクとなる。特にeGFR30未満ではMALAと関連しているが、30以上あるからといって発症に関連していないとは言えない。

<アルコール過剰摂取>

エタノールの酸化により、乳酸代謝にも必要なニコチンアミドアデニンジヌクレオチドが消費されるため。

<薬剤>

メトホルミンの腎排泄を低下させる薬剤、例えばヒスタミン-2受容体拮抗薬やリボシクリブは、メトホルミンの蓄積とMALAを引き起こしやすい。

MALAの予防と治療

重篤な患者は、低酸素症、心不全、腎機能障害などのリスク因子を抱えていることが多く、メトホルミンと相まってMALAのリスクを高めるため、乳酸アシドーシスがない場合でも、これらの患者では最初はメトホルミンを中止するのが賢明である。メトホルミンは、即放性製剤では摂取後1~3時間、徐放性製剤では摂取後6~8時間でピーク濃度に達し、腎機能が正常な患者でも消失半減期は約5時間であるため、メトホルミンの効果は、患者の投薬リストからメトホルミンを中止した後も数時間持続する。

MALA と診断したら、メトホルミンの投与を中止する。重度のメトホルミン中毒の場合は、影響を受けた臓器系に対する支持療法が必要。

同時に発生しているであろう A 型乳酸アシドーシスの治療と、メトホルミンの体外除去により、MALA の解消が促進される。MAP 65 mmHg以上に維持するために、血管収縮薬(ノルアドレナリン、バソプレシンなど)および強心薬が必要になる場合がある。まれに、MALA の難治性心血管不全では、ECMOが必要になる場合がある。

支持療法の一環として、静脈内重炭酸ナトリウム投与は、pH ≤ 7.2の重度のアシデミアを軽減できる。重炭酸塩による心臓機能の直接的な改善は実証されていないが、中等度/重度の急性腎障害(急性腎障害ネットワークスコア2~3、血清クレアチニンがベースラインの2倍以上または尿量0.5mL/kg/h未満が12時間以上)の患者で、pH ≤ 7.2、動脈血二酸化炭素分圧≤ 45mmHg、血清重炭酸塩≤ 20mmol/Lの場合、pH ≥ 7.3を目指して静脈内重炭酸ナトリウムを投与すると、28日目の全死亡率と7日目の少なくとも1つの臓器不全の存在の複合アウトカムが減少する(Lancet. 2018 Jul 7;392:31-40.)。これらの治療閾値はMALAにも当てはまる可能性が高い。多くの患者は急性腎障害を併発しており、急性腎障害ネットワークスコアが2以上の重症患者ではメトホルミンが乳酸値の上昇と関連しているからである。

メトホルミンは、小分子で、水溶性で、タンパク質結合が最小限で、透析で容易に除去できる中毒対外除去のworkgroupによる透析の推奨は、乳酸 > 20 mmol/L、pH ≤ 7.0、標準的な支持療法(重炭酸塩点滴の使用など)が失敗した場合、としている。

体外治療をする前のメトホルミン濃度を測定することの臨床的有用性は不明であり、濃度が高くなくてもメトホルミンの毒性を除外することはできない。メトホルミンがクエン酸代謝を阻害し、クエン酸の蓄積につながる可能性があるという懸念があるが、持続的腎代替療法のフィルター寿命を延ばすための局所的クエン酸抗凝固療法は安全に使用できる。

乳酸濃度が3 mmol/Lを下回り、pHが少なくとも7.35に回復すると体外治療を中止できるが、メトホルミンが組織から血管内腔に再分布することによるMALAのリバウンドを検出するには、繰り返しモニタリングする必要がある

HDを使用する場合、ある研究では、15時間の累積持続時間がメトホルミン濃度を治療範囲に正常化することと関連していることが示されている(Crit Care Med. 2009;37:2191-6.)。

メトホルミンの再開時期

メトホルミンを再開する最適な時期は十分に研究されていないが、まず乳酸アシドーシスが解消したことを確認し、腎機能を再検査し、メトホルミンを再開する前に eGFR が 30 mL/分/1.73 m2 以上であることを確認するのは合理的である。

eGFR が 30~60 mL/分/1.73 m2 の場合、メトホルミンの用量調整により蓄積を防ぐことができる。1日の最大総投与量は、eGFRが45~59 mL/分/1.73 m2の場合は1500 mg、eGFRが30~44 mL/分/1.73 m2の場合は1000 mgに抑えるべきである。

さらに、慢性肝疾患の安定した患者で、肝不全に陥っておらず、アルコールを過剰に摂取していない場合は、乳酸の肝臓からの除去でメトホルミンを安全に使用できる。

まとめ

メトホルミン内服している患者のtype B 乳酸アシドーシスを見つけたら、MALAを考えなければなりませんね。

基本は支持療法、かつ、利尿が期待できなければ透析を考慮ですね。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次