超音波ガイド下経皮気管切開術:リスクに基づくプロトコル

超音波ガイド下経皮気管切開術:リスクに基づくプロトコル

Ultrasound-guided percutaneous tracheostomy: a risk-based protocol

  • Ultrasound J 16, 31 (2024).
  • https://doi.org/10.1186/s13089-024-00381-6

超音波ガイド下での気管切開術についてのプロトコールがありましたのでご紹介します!

目次

Introduction

気管切開の手技としては、openまたは経皮的アプローチがある。

openは、頸部の解剖学的障害、肥満、頸部の長さなどの理由で経皮的手技が不可能な場合にのみ行われている。

経皮的アプローチは、解剖学的ランドマーク、気管支鏡検査、超音波検査を参考にして施行される。この手技では、気管口が形成され、ガイドワイヤーを用いて気管カニューレが挿入されるまで、修正Seldinger手技に従い、順次拡張を行う。経皮的気管切開術後の合併症発生率は低いが、発生した合併症は致命的となる可能性があり、気道の喪失、大量出血、気胸、気管損傷、変位、カニューレの閉塞などがある。

プロトコール

穿刺の段階では、隣接する構造物を誤って穿刺するリスクを最小限に抑え、適切なカニューレの配置を確保することが目的である。スクリーニング段階は、手技後に発生する可能性のある合併症を速やかに特定するために行う。超音波検査は、患者を仰臥位に寝かせ、頸部を伸ばし、肩枕を入れて行う。

まずプロトコールを開始する前に、以下の禁忌がないことを確認。

  • 解剖学的異常
  • Plt5万以下
  • INR>1.5
  • aPTTが正常値の2倍
  • 頭蓋内圧亢進
  • 蘇生期のショック
  • 重度低酸素血症
  • 穿刺部の感染

その後、鎮静薬、筋弛緩薬、高度気道器具、適切なサイズの気管切開チューブなど、必要な備品が揃っていることを確認するためのチェックリストから、物品を準備する。そして、気管切開キットに以下の物品が入っていることを確認する。

<Step1 腕頭動脈の走行を確認>

リニア型プローべで胸骨切痕部に置き、胸骨鎖骨接合部の音響陰影間の高エコーラインとして胸膜ラインを確認する。カラードプラを使用し、輪状軟骨に達するまで尾側から頭側へスキャンする。腕頭動脈は、健常人の64%にみられる。胸骨切痕部の上方で気管の前方を横切る拍動性の構造として同定される。また、セクター型プローべで胸骨内分岐部を確認することでも同定可能である。同定された場合は、経皮的手技ではなくopenで行う。

<Step2 気管前部構造の同定>

リニアトランス デューサを短軸に置き、輪状軟骨から胸骨切痕までスキャンする。気管輪は、粘膜と空気の界面で残響アーチファクトを伴う後方領域の高エコー線を伴う逆U字型の形態により同定する。甲状腺は、それぞれ気管の外側と前方に位置する。これらは胸骨舌骨筋の後方にある等エコー構造として同定される。安全な穿刺部位を確認するために気管前血管構造を同定するが、カラードプラを気管前方におくことで確認できる。直径が3.9mmを超える動脈や気管前静脈が確認された場合は、出血のリスクが高いため、open手技を行うことが推奨される。気管前部の正中線を中心に、2×2cmの安全域を短軸と長軸で設定することが推奨される。この範囲を特定できない場合は、openで行うことを考慮する。

<Step3 外側安全マージンを設定する>

経皮的手技では、不用意に傍気管穿刺を行うリスクがあり、総頸動脈や頸静脈を損傷するリスクがある。最大15%の症例で、総頸動脈が気管輪から10.5mm未満の位置にあることが報告されている。気管正中線から大血管内縁まで少なくとも2cmの安全域を確保することが推奨される。これを行うには、リニア型プローべを短軸に置き、カラードプラで輪状軟骨から胸骨切痕までを探り、ステップ2で特定した安全域を測定する。

上記も参照になる。

<Step4 輪状軟骨の確認>

気道管理合併症は、経皮的気管切開術後の死亡原因の第2位である。最も頻度が高いのは、気管切開チューブの変位、気道の喪失、チューブの気管傍位である。このため、気道が失われた場合の外科的輪状甲状腺切開術を含む緊急気道の対処計画を立てることが推奨されている。

超音波は、緊急輪状甲状腺切開が必要な場合に備えて、輪状軟骨を上部の安全マージンとして、また輪状甲状間膜を同定する解剖学的基準として使用することができる。輪状軟骨が馬蹄形をした低エコー像として確認され、そのすぐ上に輪状甲状膜が確認される。さらに気管切開チューブのサイズは輪状軟骨の高さで気管内直径を確認することで選択する。

<Step5 気管前距離と気管の中間までの距離を測定する>

気管後壁の穿刺は、経皮的手技における気管穿孔のリスクを高める。超音波を用いて気管前距離と気管中間点までの距離を測定することで、針を挿入する際のマージンを決定することができる。

<Step6 輪状軟骨の高さで気道の縦軸を確認する>

はじめに、気道の縦軸を輪状軟骨のレベルで確認する必要がある。輪状軟骨の高さでプローべを90度回転させる。気管輪は数珠のネックレスのような丸みを帯びた複数の低エコー像として同定できる。

<Step7 気管内チューブの位置>

気道の縦軸において、超音波を用いて気管内チューブの遠位端を確認することが可能である。気管壁とチューブ壁を隔てる空気界面が超音波の透過を妨げるため、可視化が困難な場合がある。頸部を十分に伸展させてチューブの遠位端を前方に移動させ、気管壁に最も近接した端部を同定するためにプローべを傾けたり揺らしたりして確認する。チューブの遠位端の位置は甲状軟骨と輪状軟骨の間としてそこまで挿管チューブをリアルタイムでエコーで見ながら引き抜く。これはチューブのカフに穴が開くリスクを減らす。

<Step8 挿管チューブのカフの位置を特定する>

経皮的手技では、チューブカフ穿刺が最大6.6%の症例で起こりうる。カフ穿刺のリスクを減らすには、挿管チューブを輪状軟骨より上部に移動させる必要がある。なお、エアフラッシュテストにより、カフの位置を確認することができる。これを行うには、カラードプラをチューブの遠位端に置き、カフを収縮させ、5ccの空気で膨張させる。この操作で、カフの位置のカラードップラーで流れが可視化されるはずである。可視化されない場合は、遠位端の可視化が不正確である可能性があるため、チューブの抜去を続行せず、説明した手順を繰り返すことを推奨する。

<Step9 リアルタイム穿刺>

経皮的気管切開の際、穿刺のガイドに超音波を使用すると、解剖学的ランドマークでガイドする手技と比較して、初回穿刺成功率が向上し、正中線逸脱が減少することが示されている。正中線逸脱が増加すると、拡張や気管切開チューブの挿入時にかかる力のベクトルも増加し、ガイドワイヤーのキンク、拡張時の困難、気管裂傷や破裂などの合併症のリスクが高くなる。

最初に、気管腔を縦軸で確認し、トランスデューサーの正中線に合わせる。次にトランスデューサーを90°回転させ、横軸方向の視野を得る。穿刺は測定した気管前距離の75%の位置に針を刺して行う(第2,3気管輪の間)。音響影が気管正中線上にあることを確認し、測定した気管正中までの距離に達するまで針を進めることが重要である。

<Step10 ガイドワイヤの通り道を確認>

ガイドワイヤーの気管内経路を特定することで、気胸、気管傍拡張、偽ルート、気管穿孔のリスクを低減することができる。縦軸、横軸両方で確認する。

<Step11 カニューレの気管内留置位置の確認>

順次拡張した後、気管切開カニューレをガイドワイヤーを通して導入する。カフを膨張させた後、超音波でカニューレの気管内位置を確認する。リニアトランスデューサーで、短軸方向の気管リングを確認する。カニューレのカフは、気管輪の後方に丸みを帯びた低エコー像として観察される。これにより、カフの位置が確認でき、気管切開カニューレの傍気管位置が除外される。

<Step12 気胸を除外する>

最も一般的な原因は、気管後壁の損傷、カニューレのずれ、不注意による穿刺、偽ルートの作成、カニューレの傍気管位置、および人工呼吸によって誘発される気圧外傷である。プロトコールの最終段階は気胸の有無を確認することである。評価はBモードとMモードのリニアトランスデューサーを用いた肺超音波検査で行う。胸骨鎖骨接合部から肋骨下レベルの腋窩正中線まで走査し、両側を探ることが推奨される。slidingを確認し、slidingがなければ気胸を第一に考える。slidingが認められない他の原因としては、カニューレ閉塞、カニューレ位置異常、重度の気管支痙攣などがある。

まとめ

超音波を使用した経皮的気管切開術でここまでしっかりしたプロトコールは初めて見ました。参考にして安全に進めていきたいですね。

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