外傷性肋骨骨折の非手術的治療に関する包括的レビュー

外傷性肋骨骨折の非手術的治療に関する包括的レビュー

A Comprehensive Review of the Non-operative Management of Traumatic Rib Fractures.

  • Curr Anesthesiol Rep (2024).
  • https://doi.org/10.1007/s40140-024-00645-w

肋骨骨折に対する、リスク管理、鎮痛などがまとまっていたので紹介します。

目次

肋骨骨折の合併症

65歳以上の患者では肋骨骨折の合併症が多い。肺炎と死亡率はすべての年齢層で肋骨骨折の数が増えると増加するが、高齢患者ではさらに増加する。肺炎率は高齢患者で31%であるのに対し、若年患者では17%程度(J Trauma Acute Care Surg. 2023;94(3):398–407.)。肋骨骨折は長期的な痛みや障害にも関連しており、負傷後6か月で仕事に復帰できる患者はわずか59%程度である(J Intensive Care Med. 2023;38(4):327-39.  J Clin Anesth. 2023;92:111276.)。死亡率は年齢に関係なく10~12%と推定されている。入院患者の場合、肋骨骨折が増えるごとに死亡率は上昇し、肋骨骨折が6本を超えると40%を超える。死亡は通常、呼吸不全や肺炎によって引き起こされる多臓器不全が原因で発生する。

リスク評価とスコアリング

Rib Fracture Score、Chest Trauma Score、RibScoreがあるが、これらのスコアは静的指標であり、患者の状態変化に基づいて判定できるわけではない。

Pain Inspiration Cough (PIC) score、Sequesntial Clinical Assessment of Respiratory Function (SCARF) scoreは動的スコアリングシステムである。

<Rib Fracture Score (RFS)>

肋骨骨折スコアは、肋骨骨折の詳細と患者の年齢のみを考慮する。肋骨骨折スコアは、骨折数(肋骨骨折の総数)に骨折側の数を掛け(片側骨折の場合は×1、両側骨折の場合は×2)、年齢係数(51~60 = 1、61~70 = 2、71~80 = 3、>80 = 4)を加算して計算される。RFS は死亡率、肺炎、気管切開率の予測値が低いことが示されている(J Surg Res. 2018;229:1–8.)。ただし、65 歳以上の患者では、RFS が 8 を超えると死亡率が高くなり、ISSが高くなり、入院期間・ICU入院期間が長くなり、肺炎の発生率が高くなる。

<Chest Trauma Score (CTS)>

Indian J Anaesth. 2019 Mar;63(3):194-199.から引用

CTS > 7 は死亡率、ICU 入院、挿管の増加と関連し、CTS > 5 は入院期間の延長と人工呼吸器の持続期間の延長と関連していた。65 歳以上の患者で CTS > 6 は死亡率、ISS の上昇、入院期間の延長、ICU入院期間の延長、人工呼吸器の持続期間の延長、気管切開率の上昇、肺炎率の上昇が見られた(J Surg Res. 2018;229:1–8.)。

<RibScore (RS)>

RS は、胸部CTに基づく肋骨骨折の放射線学的スコアである。

RibScore
骨折6本以上いいえ 0はい 1
両側骨折いいえ 0はい 1
フレイルチェストいいえ 0はい 1
≧3の重度(両皮質)転位骨折いいえ 0はい 1
第1肋骨骨折いいえ 0はい 1
3つの解剖学的領域(前方、外側、後方)すべてに1つ以上の骨折があるいいえ 0はい 1

RS が 4 以上の場合、肺炎、呼吸不全、気管切開の特異度は 90% を超える。RS > 1 でも、死亡率、ISS が高く、入院期間 が長く、ICU入院期間 が長く、人工呼吸器の持続期間が長く、気管切開率が高く、肺炎率が高い。RSスコアが高いほど特異度が高くなるため、ISS が高い重傷患者の選択的評価には RS を使用することが推奨される。

<Pain Inspiration Cough (PIC) Score>

https://anmc.org/files/RibFracturesGuideline.pdfより引用

導入が容易な動的なスコアリングシステムとして開発された。PIC スコアは、3 つのカテゴリスコア (痛み、吸気、咳) の合計から計算され、3-10点となる。

初回導入時には、PIC スコアが 7 以下であれば、呼吸状態の低下による予期せぬ高レベルのケアへの転院が 57% 減少し、入院期間 が 0.7 日短縮され、自宅退院が 13% 改善された。PIC スコアが 7 以下であれば、ICU 入院と 入院期間 の延長に高い関連がある。PIC スコアのカットオフ値 7 は、ICU入院期間 > 48 時間の独立した中程度の予測因子であり、特定の傷害パターンや傷害前の併存疾患の負担とは関連がなかった。

モニタリングおよび呼吸マネージメント

3 つ以上の肋骨骨折がある高齢者 (65 歳以上) は、罹患率と死亡率が低下するため、ICU 入院が推奨される

<インセンティブスパイロメトリー>

インセンティブスパイロメトリーを用いたベッドサイド評価は、治療と予後の両方に使用できるため、標準的な治療となっている。治療的には、インセンティブスパイロメトリーは肺の拡張を助け、無気肺を減らす。最近のランダム化比較試験では、インセンティブスパイロメトリーの利用により、外傷性肋骨骨折患者における無気肺、血胸、胸腔ドレーンなどの介入を含む肺合併症が軽減されることが分かった(Trials. 2019;20(1):797.)。入院時のインセンティブスパイロメトリー容量が低い (< 500 ml) と急性呼吸不全の発生率が高い(Am J Surg. 2017;213(3):473–7.)。肋骨骨折後のインセンティブスパイロメトリー容積が1000ml未満の患者における肺合併症の相対リスクは3.3である(Am Surg. 2019;85(9):1051–5.)。副作用が最小限で、費用が安く、治療耐性が良好であることから、肋骨骨折のすべての患者にインセンティブスパイロメトリーの使用を推奨する。

<NIV/CPAP>

局所鎮痛と組み合わせたCPAPは肺炎の発生率を低下させ、患者自己管理鎮痛と組み合わせたCPAPは機械的人工呼吸器と比較して死亡率と院内感染率を低下させる。

CPAPを受けるよう割り当てられた低酸素のある鈍的胸部外傷患者は、HFNCを受ける患者と比較して挿管率が40%低く、全体的な入院期間が7日間短縮した(Emerg Med J. 2005;22(5):325–9.)。

ガイドラインでは現在、肋骨骨折が3本以上ある高齢者(65歳以上)には非侵襲的換気の使用が推奨されている( JAMA Netw Open. 2020;3(3): e201316.  Injury. 2018;49(6):1008–23.)。

疼痛コントロール

<アセトアミノフェン>

静脈内アセトアミノフェンを投与された患者と静脈内モルヒネを投与された患者の痛みの重症度を比較したが、肋骨骨折の痛みの緩和効果や副作用に有意差は認められなかった(Emerg(Tehran). 2015;3(3):99‐102.)。

経口アセトアミノフェンと静脈内アセトアミノフェンを比較したが、痛みの軽減スコア、死亡率、入院期間、肺炎の発症に差は認められなかった(Am Surg. 2020;86(8):926–32.)。

<NSAIDs>

多くの医療従事者は、急性腎障害 (AKI) の悪化リスクを懸念して、外傷後鎮痛のための NSAID の使用についてこれまで慎重な姿勢をとってきたが、後ろ向きコホート研究では、短期間の NSAID 使用では対照群と比較して AKI が悪化しないことが判明し、著者らは重傷の外傷患者では NSAID が十分に活用されていない可能性がある、とした(J Trauma Acute Care Surg. 2020;89(4):673–8.)。

<リドカイン:経皮的、経静脈的>

5%リドカインパッチとプラセボを比較した場合、静脈内オピオイドの使用や痛みのスコアに差がないことが示されたが、他の研究では、5%リドカインパッチを投与された患者はプラセボと比較して、5日目以降の平均痛みスコアが有意に低く、メペリジンの総使用量が有意に低いことが示された(J Am Coll Surg. 2010;210(2):205–9. J Trauma Acute Care Surg. 2022;93(4):496–502.)。

単一施設の二重盲検ランダム化比較試験では、静脈内リドカインと通常の鎮痛剤の併用とプラセボと通常の鎮痛剤の併用を比較し、リドカイン群では運動時の痛みが有意に軽減した(J Trauma Acute Care Surg. 2022;93(4):496–502.)。

<ケタミン>

低用量ケタミンは24時間の数値的疼痛スコアや経口モルヒネ等価量の合計に影響を与えなかったが、ISSが15を超える患者では経口モルヒネ等価量の減少を認めた(J Trauma Acute Care Surg. 2019;87(5):1181–8.)。

Regional Anesthesia: 区域麻酔

区域麻酔での鎮痛効果は、データによって様々な結果となっている。

硬膜外麻酔は他の局所麻酔法よりも鎮痛効果が高いことが実証されたが、ICU滞在期間や肺合併症などの副次的エンドポイントについては差は見られなかった(Eur J Trauma Emerg Surg. 2019;45(4):597–622.  J Clin Anesth. 2023;92:111276.)。

硬膜外麻酔やその他の局所麻酔法は肺炎、HLOS、人工呼吸器の持続期間、死亡率に何ら影響を及ぼさないことを明らかにした(J Trauma Acute Care Surg. 2023;94(3):398–407.)。

これらを踏まえて、肋骨骨折のある高齢患者に対する硬膜外麻酔やその他の局所麻酔法の使用について、賛否両論を唱えていないが、他の複数の専門学会は、禁忌がない場合、3本以上の肋骨骨折のある高齢者(65歳以上)に対しては、硬膜外麻酔を推奨し続けている(JAMA Netw Open. 2020;3(3): e201316. J Trauma Acute Care Surg. 2017;82(1):200–3. Surgery. 2004;136(2):426–30.)。

区域麻酔のタイミングの影響を調べたところ、肋骨骨折のある高齢患者において、早期麻酔(24時間以内)では、後期麻酔(24時間後)と比較して、予定外の挿管やICU入院の発生率が低下し、自宅退院の確率が上昇することが判明した(Surgery. 2023;174(4):901–6.)。

硬膜外麻酔以外に使用される局所麻酔法の例には、erectore spinae plane block (ESPB)、傍脊椎ブロック (PVB)、serratus plane block (SAPB)、および肋間神経ブロック (ICNB) がある。

An anatomical schematic and an associated series of static ultrasound images that delineate various regional anesthesia blocks that can be used for analgesia for rib fracture patients. ESPB = erector spinae plane block; PVB = paravertebral block; SAPB = serratus anterior plane block; ICNB = intercostal nerve block; T = trapezius; R = rhomboid; ES = erector spinae; LD = latissimus dorsi; SA = serratus anterior; EI = external intercostal; II = internal intercostal; IMI = innermost intercostal; TP = transverse process; PVS = paravertebral space

<ESPB>

ESPB は、脊柱起立筋群と横突起の間の面をターゲットとする超音波ガイド筋膜面ブロックである。単回またはカテーテルベースの手法として使用することで、局所麻酔薬が胸郭に供給できる背側枝と腹側枝の両方に拡散する可能性がある。ESBP は、合併症 (脊髄損傷、硬膜外血腫、血行動態不安定性) のリスクが低いこと、および欧州麻酔集中治療学会 (ESAIC) と欧州局所麻酔学会 (ESRA) の合同ガイドラインによると抗凝固療法が禁忌ではないことから、ますます使用されてきている(Eur J Anaesthesiol. 2022;39(2):100–32.)。

<PVB>

PVB は、従来は盲検法で表面解剖学に基づく手法であったが、最近では超音波ガイドを利用してアプローチするようになってきた。単回注射またはカテーテルベースの手法により、局所麻酔薬を注入したレベルに局在させたままにしたり、隣接レベル、肋間腔、硬膜外腔に広げて胸壁鎮痛効果を生じさせたりすることができる。PVB は、副作用、合併症、禁忌が少ないことから、肋骨骨折に好ましい手法である。

<SAPB>

SAPB は、胸肋間神経の外側皮枝を標的とする超音波ガイド下ブロックである。単回注射またはカテーテルベースの技術により、前鋸筋を囲む深部または浅部の潜在空間でブロックできる。SAPB には合併症や禁忌はほとんどありませんが、気胸のリスクはある。利点の 1 つは、仰向けで最小限の体位変換で実施できるため、患者の協力が少なくて済むことである。

<ICNB>

ICNB は、ランドマークベースまたは超音波ガイド法によって、T1-T11 脊髄神経の前枝/腹枝を標的とする。カテーテルを挿入することもできますが、この局所的手法では、特に複数の肋骨骨折の場合、シングルショットの方がより実用的である。硬膜外麻酔よりもリスクが低く、禁忌も少ないが、気胸や血管損傷のリスクが高くなる。

まとめ

多発肋骨骨折に対しては、経口・静注鎮痛薬に加えて、Regional Anesthesiaをもっと使用していきたいなぁと思いました。スコアリングに関しては、どのスコアリングが良いか、ではなく、症状、年齢、多発肋骨骨折の有無、フレイルセグメントがあるか、このあたりに注意をしていけば良いかなぁと個人的には感じています。

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